離れていてもできること|古賀 弥生


東日本大震災のあと、アートマネジメントや文化のまちづくりがテーマの授業で「災害と芸術」という1コマを入れるようになった。地震や水害などが人と地域を大きく傷つけてしまったとき、「芸術は大きな力を発揮することができるはず」だと思ったから、学生と一緒に「何ができるだろうね」と考えてみた。

ここでいう「芸術」は演劇だけのことではないけれど、「演劇」と置き換えてもいいと思う。さて、何ができるのかというと、例えば「お金を集めること」。被災地支援のためのチャリティ公演や作品の販売で資金を生み出すことができる。

それから「記録すること」。そのとき何が起こって人は何を思ってどう行動したのか、作品として残し災害を経験しなかった人に知らせることができる。

そして「癒すこと/力づけること」。形がなくなってしまった思い出を作品として蘇らせたり、気持ちの整理が必要な人に寄り添ったりすることができる。

ほかにもアートをプラスすることで楽しく学べる防災活動を展開できたり、復興まちづくりをクリエイティブな発想で進める場を創ったり。それぞれに具体的な事例があって、多彩な関わり方がある。

個人的には2005年の福岡県西方沖地震の後、島全体が被災した玄界島の小学校をアーティストと一緒にサポートしたことが思い出深い。全島避難を余儀なくされ、他の小学校に間借りして授業を続ける島の学校で、学習発表会の指導を音楽や演劇のアーティストと行った。子どもたちの心の傷を心配していたのだが、よく聞くと島では人的被害がなかったためか子どもは元気、むしろ生活再建の苦労がのしかかる大人が辛そうだとわかった。そこで、「子どもの元気で大人を励まそう」をコンセプトにオリジナル劇の上演、合唱曲の披露などを行い、喜んでいただけた。島の学校とのお付き合いは足掛け3年に及び、島に新しい校舎が再建されたのを機に「卒業」させていただいた。少なからぬ時間と労力をこの活動に傾けてくれた福岡のアーティストたちには感謝してもしきれない。

今は能登半島の状況がとても気がかりだし、台湾でも大きな地震が起こった。今後もさまざまな災害が日本を、世界を襲うのだろう。被災地に駆けつけて避難所での炊き出しや瓦礫の片付けを手伝うことも大きな力になるが、離れているところに居てできることもたくさんある。その時その場の状況に応じて、「自分は何ができるのか」を問い続けたい。

古賀弥生
・芸術文化観光専門職大学 教授
・NPO「アートサポートふくおか」を設立して20年間活動

・「アートで人とまちをしあわせに」できると信じている